実は、歴史上、3人いる本寿院。一人目は東北の覇者伊達政宗の側室、二人目は尾張藩3代藩主徳川綱誠の側室であり、4代藩主徳川吉通の生母です。こちらの女性は、絶世の美女だったと評判の女性であり、1995年の大河ドラマ「八代将軍徳川吉宗」では、福と名乗ったこの役を五月みどりさんが演じております。
三人目は、2018年の大河ドラマ西郷どんにおいて、泉ピン子さんが演じられることになった本寿院になります。こちらの本寿院は、江戸幕府12代将軍徳川家慶の側室であり、13代将軍となった徳川家定の生母になります。
明治維新を迎えようとする江戸幕府末期、家定の嫁である篤姫とともに幕府崩壊を見届けた、芯の強い女性だったと言われております。
本寿院とは?
彼女の生涯とは、一言で言えば、波乱万丈です。
彼女の父は、幕臣の跡部正賢とも、御書院番を勤めた跡部正寧とも言われておりますが、定かではありません。
文政5年、彼女の姉が大奥に上がっていた縁に因み、西ノ丸御次として大奥に奉公することになります。やがて、第12代将軍・家慶の目にとまり、御中老お美津の方と名を変え、後の徳川家定となる政之助を出産します。その後も、春之丞、悦五郎が次々と誕生しますが、政之助を除く二人の子は幼いころに夭逝しました。
息子・家定を将軍に
その当時、家慶には多くの側室があり、子の数は総勢29人という子だくさんの殿さまでした。ですが、5歳まで無事に育ったのは、政之助を含むわずか3名のみ。その3名のうち、成人したのは、文政10年、名を家祥と改めた政之助(家定)のみになります。
11代将軍であった徳川家斉が将軍職を家慶に譲ると、本寿院と家祥は大奥の本丸へと住居を移します。わが子家祥を13代将軍とするため、乳母歌橋とともに大奥での足場を囲めていきます。
本寿院の晩年
因みに、本寿院とは、12代将軍となった家慶が死去した後、髪をおろし、尼となった彼女の院号になります。
徳川家定亡き後、大奥で篤姫とともに暮らしておりましたが、14代将軍・徳川家茂が京都より和宮を迎えるにあたり、篤姫とともに二の丸ヘと住居を移しました。江戸城無血開城後は、因縁のあった一橋家へ移り、明治18年、一橋邸にて79歳という長い人生を閉じております。
本寿院と篤姫の関係
本寿院とは、13代将軍徳川家定の生母であり、その時代、大奥で権勢をふるった、大奥最高の地位をもつ女性になります。家定の嫁である篤姫とは、嫁姑の関係です。
この本寿院、最高権力者という肩書があったために嫁いびりをする嫌な姑のイメージがありますが、実際はそうではありません。西郷どんでは、嫁いびりでは定評のある泉ピン子さん本寿院の役を演じているため、そういった描写があるかもしれませんが、実際の篤姫との関係は至極良好で、後に発見されている書では、篤姫に、その時の旬の野菜であるなすを食べさせたいとの言葉が書かれてあります。
また、篤姫が生涯でただ一度の旅に出かけた際、あなた(本寿院)がいないので寂しいと素直に書いてあることを見ても、嫁、姑の関係は至極良好であったのではないか、と推測できます。
一橋家との因縁
本寿院は一橋家と因縁があり、13代将軍跡目争いが勃発した際、家定ではなく徳川慶喜を推す者たちがいたことに端を発しております。
12代将軍・家慶が、わが子家定の病弱なことを不安がり、健康な体をもった者が良いのではないか、幼少期より神童と誉れ高かった徳川慶喜はどうかとの声があり、その時から、幕末の賢候と呼ばれ、部屋住みの身から藩主へと出世した徳川斉昭、また、その息子である徳川慶喜のことを、本寿院は快く思っていなかったようです。更には、大奥の縮小を唱える徳川斉昭に、彼女はしばしば不信感を覚え、忌み嫌っていたとの記述もあります。
晩年、本寿院は、自分がその一橋家へ行くことになろうとは思いもしなかったでしょう。
西郷どん、本寿院役は泉ピン子!
西郷どんで本寿院を演じるのは、泉ピン子さんです。彼女の大河ドラマ出演はおんな太閤記、山河燃ゆ、いのちと続き、西郷どんでは4作目になります。
彼女の出演した大河ドラマの中でも、もっとも代表的な作品はおんな太閤記で演じた秀吉の妹あさひなる役ではないでしょうか。おんな太閤記では篤姫のような嫁となる人との兼ね合いはありませんでしたが、兄嫁のねねを慕う姿が書かれておりました。
32年ぶりの大河出演
さて、その泉ピン子さん。西郷どんでは13代将軍・徳川家定の母である本寿院を演じますが、大河ドラマ出演は、32年ぶりとのこと。彼女の演じる本寿院とは、どのような女性像になるのでしょうか。
最初に依頼を受けた際、薩摩弁を覚えるのは、この年齢になると難しいと出演を悩んだそうですが、薩摩弁は話さなくても良いとの返事がもらえ、この役を引き受けられたとのことです。
西郷どんでは、大奥最高権力者であり、その当時の日本にたった一人しか存在しない将軍の母であります。まぁ言えば、その将軍さえも頭が上がらない、たった一人の将軍に大切にされる母の役を演じるわけです。
嫁となる篤姫を送り込む島津斉彬、老中・阿部正弘との兼ね合い、その当時の幕閣たちの真意、息子を将軍にと画策する徳川斉昭、これら個性の強い人たちとの駆け引きを、泉ピン子さんがどう演じていくのでしょうか。楽しみですね。